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Pan Records

戦前ブルース音源研究所

Pre War Blues Laboratories

林 正樹 (文)

 

ひところ戦前ブルースばかり聴いていたころがあった。

好きなブルースマンはたくさんいて、一人あげろといわれればどうしても、かの、
ロバート・ジョンソンになってしまうけど、

彼以外で、実は、たぶん自分が一番たくさん聞いたのはブラインド・ウィリー・マクテル
(Blind Willie McTell)だと思う。

マクテルはジョージア出身の12弦ギターを弾くブルースシンガーである。

デルタブルースに比べるとやはりずいぶんと軽い感じの印象がある。

声は鼻にかかっていて、まるで声変わりしていない青年のように甲高い歌い方をするシンガー、
とずっと思っていたし、そこが魅力だとも思っていた。

でも、数年前、Mixiで、前にも少し紹介した「戦前ブルース音源研究所」の人たちに出会って、
その時代のレコードのかなりのものが半音、

時には一音近く高い音で再生されている、いわゆる早回しの音だと知らされて少なからず驚いた。

特に僕が好きなマクテルは相当な早回しのようで、回転数を補正して聞くとあの甲高い声は消え、
落ち着いた声に変貌する。

次の音源が補正されたマクテルが歌うBroke Down Engineという、僕の大好きな曲である。



そして、僕がそれまで聞いてきた早回しのマクテルのBroke Down Engineが次のこれ。

なんと上述の演奏より一音近くも高く、テンポも相当に早い。


 


この違いを聞かされたとき、正直、最初は、えー、ほんとかよ、これ、と思った。

甲高くて鼻にかかった声、そして時々やたら早口で歌うマクテルの、

まさにその部分にけっこうな魅力を感じていただけに、わりとショックであった。

でも、落ち着いて聞いてみると、補正した後の落ち着いた演奏の方が、
やはりどうやらホンモノみたいにも聞こえるな、と思ったことは思った。

それでしばらくたって、今度は上述のBroke Down Engineを録音して20年ぐらいたった、マクテルが50歳過ぎのときに
レコーディングされた次のBroke Down Engineの音を聞いた。

ちなみに、前述の録音は1931年でマクテルが33歳のときである。


 


これを聞くと、マクテルの声は落ち着いている。この声の主はたしかに補正した後のマクテルだ。

でも、ひょっとすると、33歳から50歳になって歳を取って声が落ち着いたのだろうか。

とか思っているうちに「戦前ブルース音源研究所」から、
上述の50歳のマクテルを今度は意図的に一音近く早回しにして作った音源を聞いた。

いま、ここには持っていないのだけど、これが、もう、僕が長年聞いてきたあの甲高く鼻づまりで
早口なマクテルそのもので、これが決定的だった。

やはり「戦前ブルース音源研究所」は正しかったのだ。

あの声は早回しで作られてしまった声だったんだ。

さて、それでどうなったかというと、それから今一度マクテルの補正した方の歌を聞いてみると、
僕が一時失われてしまった、と思っていた、

あの甲高い鼻にかかったマクテルの声はまたぜんぜん違う別の形で、
その渋くて落ち着いた声の中に染み渡っているのが聞こえるようになった。

やっぱり、マクテルは、すばらしい。やはり正しい回転数で聞くべきだなと思う。

僕は元来、真相とか出来事の真偽とかよりも、それを一期一会で受け取った個人の心の方を、
はるかに重要視する人間なので、真実の詮索をあまりしないタイプなんだけど、こういう風に真相が明かされて、

そして、また別種の感動を与えてくれたのは、
「戦前ブルース音源研究所」の、執念とも言えそうな戦前レコードの回転数の追求の作業ゆえなのであって、
とても感謝している。

あと、これは自賛として言っておくけど、早回しのままで聞いていたときに僕が汲み取ったマクテルの魅力は、

正規の歌声になっても姿は変えたもののやはり無傷のまま残っていて、少しも変わっていなかった、
と今では確信している。

本当に心底好きなものであれば、早回しという悪条件でも、やはりその本質はきちんと伝わるんだな、と思う。

 

林 正樹 さん 2013-3-26   FB 一般公開記事より  転記

 

林さんは、「真空管ギターアンプの工作・原理・設計」という専門書の著者でもあり

ブルースを演奏するミュージシャンでもあり、調理家でもあり、多彩な才能の持ち主です。 

 

リンク 林さんのHPへ  

特に 戦前ブルース入門 や ブルースボーカル講座は、ブルースファンなら楽しめる興味深い内容としてまとめられてます。

 


 

 

 


追記 : この記事は 2013-03-30に投稿されたものです。
この後、林さんの素晴らしい研究が発表されてます、これは世界でも類無き研究発表でした。

是非 林さんのHPでご覧下さい。





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